FacebookはなぜIPOする必要があったのか

Financial Timesに、最近ユニコーンのIPOが進んでいない、という記事がありました。その内容はさておき、記事の中に、株主数が一定数を超えるとスタートアップは上場せざるを得なかった、という記載があったので、その根拠となる規制の具体的な内容について、備忘的に記します。

2012年までの規制

米国において企業がSECに対して継続開示義務を負わされる(≒上場せざるを得ない)基準は、1934年証券取引所法に定められています。これには大きく分けて2つの場合があって、その一つが、IPOなどで公募をした場合(1933年証券法に基づいて証券の登録を行った場合)なのですが、もう一つは、証券取引所法の12(g)に要件が定められています。

この12(g)の条文は、2012年までは、「総資産が10百万ドルを超え、かつ証券保有者(株主)が500人以上となった場合」(に継続開示義務が発生する)、とされていました。総資産10百万ドルというのはそれほど大きな額ではないので、500人という人数が重要だったのですが、インセンティブとして従業員に株式を与えざるを得ないシリコンバレーのテック企業は、成長するに従って株主500人にいつかは到達してしまいます。

Facebookも2011年に株主が500人を超える見込みであったため、継続開示を行わざるを得ないことになり、上場準備を進めた、ということになっています(※)。

JOBS法による改正

もっとも、2012年にいわゆるJOBS法が施行され、その一部として証券取引所法12(g)も改正されました。この改正の結果、

  • 証券保有者500人以上

 という基準は、

  • (1)証券保有者2000人以上、又は(2)accredited investor(※※)ではない証券保有者が500人以上、

という基準に変更されました。これにより株主の人数制限が緩和されたわけです。

更に、「証券保有者」の定義にも改正が加えられました。すなわち、(一定の)従業員報酬制度に基づき証券を保有する者は、「証券保有者」の定義自体から除かれるようになりました。これにより、適切に従業員報酬制度を設計しさえすれば、従業員株主は人数制限の対象としてカウントせずに済むようになりました。結果として、いくらスタートアップが成長したとしても、この改正後の500人(または2000人)の上限には容易に到達しないようになりました。

Financial Timesが、

Regulations that once forced companies to go public after surpassing a certain number of investors have changed.

と書いたのには、このような背景があったと言えます。

ですので、Facebookが株主500人の壁にぶつかるのがもう少し遅ければ、Facebookはまだ上場していない、という可能性もありえたのかもしれません。


(※)もちろんそれだけではないかもしれないものの、Facebookの2011年1月のプレスリリースによれば、2011年中に株主が500人の上限を超える見込みであるので、2012年4月30日までに公開財務諸表のファイリングを開始する予定である、ということが記されています。

(※※)accredited investorの簡単な説明はこちらに書きました。なお、日本の適格機関投資家等特例業務の「似たような制限」と書いていた内容は、金商法施行令17条の12第1項と金融商品取引業等に関する内閣府令233条の2となることに確定しました。

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