ベンチャーキャピタルは、スタートアップに投資する際に、投資先株式の先買権(preemptive rights)を投資契約で確保しておくことが多いです。先買権を有する投資家は、次のファイナンス・ラウンドで、他の外部投資家よりも優先してスタートアップに出資する権利を持っています。しかし、実際には、既存投資家だけで次のファイナンス・ラウンドの出資を完結することは少なくて、むしろ外部から新たに投資してくれるVCを探してきて、その外部VCがリード・インベスターを務めることが多いです。
なぜ、そのようなことをするのでしょうか。もちろん、必要な金額を調達するために新たなVCが必要だった、ということも多いと思いますが、ちょっと違って視点で見てみたいと思います。
バリュエーションの正当化
VCは、自分のLPから資金を預かってファンドを運営しており、そのファンドで保有する株式の価値は、期末には適切に評価しなければなりません。投資先が新たに資金調達をし、前回よりも株価が上がれば、VCとしてはその上がった株価に基づいて保有株式の評価額を算定したい筈です。そして、新しいラウンドに外部投資家が出資してくれれば、新しいラウンドの株価には第三者の「お墨付き」がついたことになり、適正な株価であると主張しやすくなります。
一方、既存投資家だけで出資をする場合には、内輪で株価をつりあげているだけの可能性もあり、(上がった)株価を客観的に正当化することが難しくなります。
取締役の信認義務
アメリカでは、取締役は株主に対して信認義務を負っており、新たな資金調達の際にも、可能な範囲で既存株主の持分希薄化を避けるべく、より高い株価での調達を目指すことになります。しかし、既存のVCだけが新しいラウンドに参加しているとなると、高い株価で出資してくれる出資者を本当に一所懸命には探していないのではないか、という点で、取締役としては既存株主(特に普通株主)から信認義務違反を疑われかねません(特に、VCから派遣されている取締役であれば、より利益相反の懸念が強くなります)。
外部から新たなリード・インベスターを迎えることは、調達において既存株主の利益を守るべく適切な努力を行ったことを示す証左になると考えられています。
このような結果、既存VCは先買権を持っていても、その権利を放棄して新たに外部からVCを招き入れることが多くなります。
外部投資家が見つからなかった場合
さて、新たな外部投資家を探しても、残念ながら見つからずに既存VCだけで出資をする場合もあります。そのような場合、特に、資金調達に苦しんでダウンラウンドになる場合には、取締役の利益相反が後々問題にならぬよう、適正なプロセスを踏んで調達を行うことが重要となります。例えば、特別利害関係のない取締役だけで増資の決議をとること、取締役会の中に特別委員会を設置すること、外部の投資家探しのプロセスを議事録等に残しておくことなどが考えられます。