シード期のバリュエーションの変化(とついでにcrowdfundingについて)

ユニコーンの評価額の反転についての話題を目にすることが多いですが、アーリーステージのスタートアップについても、評価額が下がりはじめているという話もあるようです。Wall Street Journalによれば、AngelListという、エンジェル投資家向けのクラウドファンディングサイトで資金調達したスタートアップのバリュエーションの平均額は、ここ数年上昇していたところ、2015年の第4四半期は490万ドルから420万ドルに下がってしまったということのようです。とはいえ、起業初期のファイナンスであればバリュエーションよりもそもそも調達できるかどうかが重要でしょうし、ダウンラウンドという話にもならないので、この程度の変化であればあまり気にしなくとも良いのかもしれません。

なお、AngelListはクラウドファンディングサイトですが、お金を払って商品を買うKickstarterやIndiegogoと違って、投資家がスタートアップの株式に出資する点で、いわゆる「ファンディング」という語感に最も近いです。もっとも、商品の購入と違って、株式への投資には米国の1933年証券法の規制がかかりますので、誰でも自由にAngelListを使って出資できるわけではなく、米国証券法に定義された”accredited investor”の要件を満たす人しかそもそもAngelListに登録することができません(※)。Accredited investorは、個人の場合は100万ドル以上の資産(自宅を除く)を有する人や、年収20万ドル(又は夫婦で30万ドル)以上の人など、それなりに資産か収入を有している人に限定されています。

そういえば、日本でも、適格機関投資家等特例業務の出資者にaccredited investorと似たような制限が間もなく課されますね。とはいえ、日本のこの規制は主にファンド業務を対象とする規制であるのに対し、アメリカの証券法の規制は、証券勧誘一般に対する規制なので、スタートアップの株式に直接出資する場合でも制限がかかることが大きな違いです。

(※)SECに分厚い書類を提出せずに株式の勧誘をするには、一般的にはレギュレーションDというSECの定めた証券法の免除規定(正確にはセーフ・ハーバー・ルールですが)を利用する必要があり、更にウェブサイトを使って勧誘する場合には、レギュレーションDの中の Rule 506(c)というものをおそらく使わなければなりません。そしてRule 506(c)の中で株式を購入できる者がaccredited investorに限定されています。なお、本年5月にはいわゆるJOBS法に基づくホンモノのcrowdfunding ruleが施行され、勧誘規制が緩くなるので、その後はAngelListも変わる可能性はあります。(更に言えばレギュレーションA+というものも去年から利用できるのですが、こちらはアーリーステージよりはもう少し成長した企業向けでしょうか。)

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